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向山洋一教育実践原理原則研究論文/ 6学年 社会 /江戸時代/
          

  「江戸時代・農業技術の発達」を原理原則を組み合わせて授業する

  岡山県津山市立北小学校    岡田健治


 向山実践を分析していくと、いくつかの原理原則が複合して、巧みに授業が構成されていることに気づく。例えば、中条小での環境教育の授業では、向山先生は、「内部情報蓄積・再構成の原理原則」(本誌No.11参照)で、子どもの情報量を上げた後に、サイクル図を使っての「単純化の原理原則」(本誌No.5参照)を複合化して授業を構成をされたのではないかと考えられる。また、上海での俳句の授業では、色を問う「分析批評」の手法を用いつつ、複数の俳句と漢詩を1セットにして「変化のあるくり返し」(本誌No.8参照)で、提示されている。阿波踊りの指導では、「局面限定の原理原則」(本誌No.7参照)で足の動きや手の動きを指導すると同時に「指導評価の原理原則」(本誌No.9参照)を用いられたと考えられる。このように見てくると、

優れた授業を組み立てるには、「授業の原理原則を複合化」して用いることも重要な条件の一つではないか。

との仮説に行き着くのである。
 そこで、本特集では、今まで明らかになっている原理原則を複合化しての授業実践を集め、分析することを通して、どの原理原則を複合化するのが、子どもの可能性をより引き出すのに有効なのかを提起したいと考える。
 江戸のグラフを人数分印刷して、配布し授業を開始する。まず、「局面限定の原理原則」で、このグラフ1つに限定して指示した。

このグラフを見て気づいたこと、思ったこと考えたことをノートに箇条書きしましょう。

 この指示で、子ども達が様々な意見を5つも6つも書いたであろうか。答えは「否」である。出てきた意見は全体で次の4つしかなかった。
@1870頃から、急に人口が増えている。
A1600年〜1720年頃は、徐々に人口が増えている。B1720年〜1870年頃は、ほとんど人口が変動して いない。
C1600年〜1720年は、線が2本もあってへンだ。
 それでは、どうして出てきた意見がこんなにも少ないのであろうか。向山先生は、次のように述べられる。

工業地帯を教えるのに、工業地帯の体験がなくちゃ無理なんです。体験できないから、せめて、テレビで見せて、そういった情報がつまって、初めて授業ができるんです。それをグラフだけでやっているバカがいますね!
 そういった子どもの体験にもとづいた形の中で、再構成していく、それが授業なのです。

 つまり、西暦を見て歴史上の事実と結びつけることが、子ども達にはできないのである。日本史を学んだ大人ならいざ知らず、6年生の子どもなら無理からぬことである。ここで、「内部情報蓄積・再構成の原理原則」が威力を発揮することとなる。

グラフの下に歴史上のできごとを、年号に合わせて書いてごらんなさい。

この指示により、子ども達は、様々なことに気づいていった。江戸時代の前期・中期・後期という見方もするようになるし、戦争のあった年、飢饉や改革…いろいろな歴史上の事実とグラフとの相関関係に気づいていったのである。第一時終了。
 さて、子どもの内部情報が十分に高まった所で、子ども達が出した疑問を中心に、グラフについての発問を「変化のあるくり返し」でぶつけていくことにする。

1870年頃から、急に人口が増加し始めたのはどうしてでしょうか。調べて予想しましょう。

子ども達からは、鎖国のとりやめで外人が入国したとか、廃刀令で切り捨て御免がなくなった、子作りをたくさんし始めたなど様々な予想が出された。一つ一つ検討した後、日本社会の近代化により米の収穫高が上がったため人口が増加したことを知らせ、次の発問をした。

1600年〜1720年頃まで、人口が増加していったのは、どうしてでしょうか。

 しばらく調べる時間をとり、予想を発表させた。すると、子ども達からは、赤子養育法で、米俵やお金がプレゼントされるようになったとか、新田開発、農業技術の進歩、生産性の向上、医学の進歩など多くの予想が出された。また、一つ一つ検討してゆき、そして、農業技術の進歩や、新田開発でお米の生産が上がったことが原因であることを知らせた。次に「江戸中期から後期にあまり人口が増加していないのはどうしてか」を問い、新田開発が限界に達し米の生産性が上がらなくなったことが原因であることを告げた。そして、最後に中心発問として、

農民たちは、どのようにして生産を高める工夫をしましたか。

と問った。子ども達は、人口とお米の関係の不思議さに驚いていた。
 以上見て来たように、本時は、「局面限定」「内部情報蓄積・再構成」「変化のあるくり返し」の3つの原理原則を複合化して授業を構成したわけであるが、子ども達の授業への集中度は、非常に高いものであった。
 今後も、「原理原則の複合化」の有効性について、より詳しく検証していきたい。


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